20200703
仕事明け、友達と森のほとりにあるカフェに行った。テラスでビールを飲んだ。移住してきて一年の友達が、やっと落ち着いたと言った。よかったね。新しい職場で知り合ってもう一年が経つ。すうっと、自然に仲良くなった。私とは全然タイプが違う。帰りがけ、彼女はテイクアウトでクロワッサンを買いたいと言った。一緒についていって私も一つ買った。彼女と別れてから、川縁のベンチでひとり、ボーッとしながら食べた。酔いが醒めるまで長谷川白紙の新譜を繰り返し聞いていた。
20200620
深夜、お酒を飲みながらハグの話をしていた。コロナになってからハグって縁遠くなっちゃったなぁと思いながら。色々なシチュエーションについて話していた時、大量に汗をかいてベタベタな状態な人でも、それがあなたならハグできます、と好きな人にいわれた。かなり清潔好きの人だと思っていたから、ありがとうございます、と素直に答えた。そんなこと言われたら、じゃあハグしていただけませんか?と申し出しそうになる。でも言わない。そういうのは秘めておく。逃げ恥の再放送を観ているので、ハグしたい気持ちが自分の中でグルグルしている。この人といつかハグできるのだろうかと思った。触れて温度を知って骨格の形を確かめてしまったら、もう元には戻れなくなりそうだ。気持ちが。というか、すでに元に戻れなくなって久しい。
20200619
夜、年に一度の煙草を吸った。好きな人から一本だけもらって、ライターを借りてカチリと火をつけた。この煙草、オーガニックなんです。パッケージを受け取って絵柄を眺める。一ミリなんですけど、葉がみっちりつまってて強く感じるかも。軽く肺に入れて吸ってみると、確かに密度が濃い感じがあった。メンソールが喉に気持ちいい。静かに話をしながら、ゆっくり煙草を吸った。これ美味しい、私がお礼を伝えると、よかった、と彼は笑った。一箱買ったらすぐスモーカーに戻っちゃいそうだからなぁ…と呟くと、買わない方がいい、と彼は言った。じゃあ、ごくたまに、あなただけからもらう。と私はニッコリして言った。こういう告白の仕方が好きなのかもしれない。相手が流せる程度に軽くて、波が寄せるように甘く捉えることもできるフレーズ。
20200612
私は私を侵害しないように生きてるし、誰のことも侵害したくない。とにかく平和がいい。グレープフルーツをしぼり終わって私は言う。焼酎の入ったグラスに慎重に注ぎ込む。私たちは磁石なんだよ、と彼女は言った。ハイボールをぐいぐい飲んでグラスを置き、磁石には磁石の使命がある、と意志を持った声で付け加える。もしそうだとしても、好きな人しか吸着したくない。私は答えた。でもさ、例えば誰かがあなたの振る舞いを面白くないと感じたとして、それはその人の修行のタイミングってことなんだし、受け入れてあげるのが愛なんじゃない?と彼女は言う。私は首を振る。自分が愛を感じる人にならね、と答える。愛のない人への修行にまで関わっていくパワーはないよ。彼女は大きな瞳で残念そうに私を見つめた。私はニッコリして、さりげなくシールドを降ろす。立ち入らないで、と思う。私には自分の中に何人もいるし、それぞれの役割と負荷を統制して、微妙なバランスを保っている。誰にもわからない。私にだって全部はわからないのだ。分析しないでください。平匡さんが言った台詞を思い出す。私のことを解ろうとしても構わないけれど、私はそのための材料を自分の監修で差し出すだけだ。あなたが解ったと思う私、を提供するために。本当は、私は自分のことを磁石だと知っている。本当は、人の心が揺れるのを風景のように眺めている。私は何もしない。何もしない、ということをして、相手が乱れていくのを見ている。そして逆に、何もされない、ということで自分が乱れるところも、冷んやりとした気持ちで眺めている。
20200611
午前中は仕事関係の本を読み、午後二時から七時半まで勉強。まあまあですね。最後、集中できなくなって公園で資料を読んでいた。雨上がりなのでベンチには座れなかった。時折夕凪の空を見上げて、陽が落ちるまで過ごした。緑の匂いが濃い。帰りしな、スーパーへ買い物へ行った。好きな人が選曲していた音楽を聴きつつ。