沢渡日記

日々徒然

20180618

昨日の夜、初めて行く店でお茶を飲んだ。遅い時間だったのでコーヒーをやめて紅茶にした。あと残り一つだというキャロットケーキを食べた。カウンターで居合わせた人と和やかに外国の話をした。カンヌのレッドカーペットを歩いたことがあるのよ、品のいい女の人がいった。そして父になる、観ました?隣の男の人が聞いた。いいえ、私は首を振った。代わりに、誰も知らないの話をした。一番小さな女の子を埋葬するシーンが頭に浮かんだ。真っ暗な夜の川べりで、遠く向こうに電車の光が見えた。是枝監督で一番好きな映画はディスタンスだ。カルト宗教の話。まだモデルだった井浦新が出ていた。時折ぼんやりと、四角い窓に切り取られた夜を見た。目を凝らすと隣の男性が映り込んでいた。彼はカラン、と音を鳴らしてウイスキーを飲んだ。カチ、女の人が細巻きのタバコに火をつけた。それから三人で、待ち侘びる女の話をした。脚を組んだヒールの靴、投げ出された文庫本。あれはウイスキーのグラスだったんですね。そう、グラスの中の氷。今日、会いたかった人はいなかった。代わりに会いたくない人がいた。そういう日もある。最寄駅はどこですか?私が尋ねると、女の人が外まで出て道案内してくれた。黒いレースのスカートがヒラヒラと風に舞った。