沢渡日記

日々徒然

20181230

昨日の午後、知らない街で電車を降りた。ごちゃごちゃした商店街を抜け、小道を通ってカフェに行った。扉を開けるとシンプルな正方形の店で、カウンターの奥に美しい店主が立っていた。黒い服を着た彼はこちらを見てふわりと微笑んだ。私は角の席に通された。店内全体が望める一番いい席だった。オーダーを済ませてぼんやりと店の中を見渡した。家具と壁の色合いは渋く抑えめで、壁の絵や棚に置かれたオブジェはさりげなく素敵だった。オシャレすぎると人は寛げない。ここは程よいと思った。店の中には質感のないロックが小さなボリュームでかかっていた。客は二人連ればかりで、髪の長い男の人が多かった。なんとなく音楽の匂いがする店だ。アイスミルクティーを飲み、バタートーストとチキンのレモン煮込みとを交互に食べた。とても美味しい。客は途切れなく入れ替っていき、でも慌ただしい感じはなかった。店主は一人、影のように立ち働いていた。決して声を張らず、丁寧な発音で接客した。私は彼の自然に個である姿に見とれた。奥ゆかしく情緒があり、まるで茶人のようだと思った。気づくとグラスの氷はすっかり溶け、体も少し冷えていた。席を立ってお会計をした。ずっとここに来てみたかったんです。私は店主に伝えた。ありがとうございます。彼は丁寧にお礼を述べ、それから懐っこく笑った。トレーを持つ左手に銀色の結婚指輪が見えた。