沢渡日記

日々徒然

20190615

昨日の深夜、立ち話をした。少し離れた場所で彼が私を待っているのがわかった。鋭敏な人なので私の気配にもすぐに気づく。でも向こうから声をかけてくることはあまりない。つい、と椅子から立ち上がって声をかけた。彼はいつもの落ち着いた眼差しで私を見た。それから二人で話をした。いつもの穏やかな物言い、どこにも偏らない態度。彼は心を揺らさない。今の私もそれを望んではいなかった。あなたの心が揺れますように。そう願うことは、私の心が揺れますようにと願うのと同じだ。そうやってだんだんとバランスを欠いて懸想に落ちていく。喉乾いたから飲み物買ってくるね。バーカウンターに立つ彼の背中を眺めた。肩先も横顔も記憶と一部も違わなかった。好きだった人のフォルム。戻ってきた彼はハイネケンのビールを手にしていた。私の手に持つ瓶は空になっていた。もう少し話を続けたら心が開いてしまう。その兆しを感じて、こちらから会話を締めた。またね。友達のように握手をして別れた。取り扱いには慎重にならなくてはならない。そう思いながら店の重い扉を押した。頰に湿った風を感じた。ふたりの関係性は無重力でありたい。全てを濾過して愛だけ残すことに、私は随分と時間を割いたのだ。