沢渡日記

日々徒然

20190720

ビールを飲みながら、真っ暗なフロアで揺れていた。プレイしているのは好きなDJだ。彼は静謐で、どこか異世界の空気を纏った音を紡ぐ。目を閉じて音の流れに身を浸すと、心がひんやりと鎮まっていくのを感じた。さっき、好きだった人と二人でお酒を飲んだ。私は彼を諦めて、前と同じ知り合いのような友達のような関係になった。お互いに大人だし、ばったり会うこともあるから変にわだかまるのはやめましょう。誠実かつ冷静に話しながら、また和解…と思った。この人とだけは和解するのは無理だと思っていた。彼の目を見て話していると、あとからあとから恋情が溢れて制御ができなくなった。でも、その理由はわからなかった。今は気持ちを表現する権利を失って、代わりに心の平穏を手に入れた。白ワインを飲みながら、私は彼に古い映画のワンシーンの話をした。誰もいない街角で、白いポリ袋がただ風に舞うというシーンだった。褪せたレンガの壁の前で、赤や茶色の落ち葉とともに、気まぐれに風に巻き上げられる白いポリ袋。寂しいことすら諦めたような透明なダンス。話しながら、この映像は自分の心象風景に近いのかもしれないと思った。いつのまにかフロアには人が増えていて、踊る人の影がモザイクのように揺れていた。女友達に声をかけられてニッコリ挨拶すると、ふんわり抱きしめられた。来てくれたんだね。少し話して、また私は一人で揺れ始めた。彼に抱きしめられた時、私は泡になって溶けてしまいそうだった。息が止まるくらい好きだと思った。でも、このまま同じことを繰り返したら気が狂いそうになって、急に居なくなったりするかもしれない。空になったグラスをテーブルに置いて静かに踊った。これでいい。彼とは距離があったほうが。私が私で在り続けるために、一生片想いのほうがいい相手もいる。