沢渡日記

日々徒然

20191014

深夜、彼に会った。百合のような立ち姿で、ゆらりと暗闇の中で揺れていた。声をかけると、彼は私の名を呼んで笑った。甘ったるい笑顔。美しい男だ。少し話してから離れた。私は赤ワインを飲みながら、若き選曲家の紡ぐ音楽を聴いた。ドラムンベースには今まで興味がなかったけれど、立ち尽くしたまま陶然とした。この人には才能があるのだな、と思った。ひとしきり音楽を聴くと急に眠くなった。ワインが回ったのかもしれない。バーカウンターの前を通ると、端の方に彼が立っていた。隣に並んで声をかけた。そろそろ帰るね、と私が言うと、まだダメ、と彼は甘い声を出した。背の高い彼を見上げるようにすると、ふわりとお酒の匂いがした。だいぶ酔っているみたいだ。ねえ、前言ってたあれ、どうなった?彼に聞かれた。あなたの知り合いと付き合うかもしれない。夏にそう言ったことを思い出した。あぁ…今は何もないよ、と答えた。彼はそれを聞いて、私に恋の指南などをした。そうなのかなぁ、私は前を見たまま曖昧に返事をした。お互いになんらかの愛情を抱いている。そのことはわかった。でも友達みたいなフリをして、爽やかに距離を置き続けるのかもしれないと思った。そして何かの拍子に、夜のせいにして隣で眠ることもあるのかもしれない。少し話して、またね、とニッコリした。