沢渡日記

日々徒然

20181202

昨日の午後、カフェでホセ・ジェイムズの新譜をかけてもらった。素晴らしい音質のスピーカーで、自宅で聴くのとは全然違った。二杯目はマイルドブレンドを頼んだ。細く美しいシェイプのコーヒーカップ。ゆっくりコーヒーを飲みながら音楽をじっと聴いていた。仄暗く、花びらがゆっくり開くようなやわらかい声。ふいに涙がパタパタと落ちてきて、これじゃ泣き女だと思った。ごめんなさい。優しくしたい人にもう優しくしないと決めて、声をかけるのも笑いかけるのもやめた。それはひどく悲しいことだった。自分が優しくされないよりもずっと。でも、その気持ちはこれから私を望む人へ全部注ぎたい。まだその相手には会えていないけれど。

20181201

昨日の夜、イベントへ行った。知っている人と知らない人が半々くらい。汽水域、と思った。ゲストDJがブースに入るのを遠くから確かめて、フロアに戻った。音楽はハウスから始まり、だんだんと深いテクノに変わっていった。暗闇で目を閉じて聴いていると、新月の夜のような気持ちになった。欠けて、最後まで欠けて朔になる。誰とも目を合わさず、誰にも微笑みかけず、ひんやりとした素の自分に戻って踊った。満ちる手段は無数にあるし、いつでも満ちたいと思っている。それと同じくらい欠けることを求めていて、でも欠ける手段は多くはない。自分がテクノを聴く理由はそれかもしれない。フロアの後ろの方に下がって音の聴こえ方を確かめた。前の方より少しマイルドに聴こえる気がした。恋人だった人が少し離れた場所で揺れていた。気づかないふりをして声をかけなかった。

20181130

昨日の夜、雑踏の中でコーヒーを飲んだ。交差点のような場所で、仕事帰りの人たちが途切れなく行き交うのを見ていた。コーヒーは一日のオンとオフをパチリと切り替える。日中、久しぶりに脳がピークパフォーマンスを発揮して、色々と保留にしていたことに着手するなどした。コアタイムを含んだ七時間睡眠の回復力はすごい。お肌もツルツルだ。ソフトバンクが上場するのでIPO株の申し込みを考えていたら、友達から別のIPO情報も入って来た。目論見書などじっくり読むことにした。ヨガで深い呼吸をしながら脂肪の燃える汗を流し、お風呂でゆっくり浸かった。最近ようやく水風呂に浸かるのを復活させて、水の中にいながらじわじわと皮膚の内側が暖かくなる感覚を味わった。お風呂上がりに更衣室でドライヤーを使っていたら、隣の女の子たちが婚活パーティーに行く話をしていた。一人の子は今の彼氏と付き合っていても埒が明かないから本気で出会いを探すという。へえ、と思いながら聞いていたら、彼氏の名前が私の元カレと同じ名前だった。はい、その名前の男は鬼門です。もちろん口には出さない。帰り道、明日のイベントに来るDJの音源を聴きながら歩いた。好きだなと思った。まだ一度もプレイを聴いたことがないから、もしかしてものすごく感動するかもしれないから、それを大義名分にして毎週末出掛けている気がする。明日はいつもとは客層が違うかもしれないという期待もある。そろそろ知らない人に会いたい。

20181129

昨日の夜、鍼灸院と迷ってあっさりしたヨガを受けた。あまり体力を使わず汗もかかないクラス。お風呂もサラッと入ってすぐに帰宅し、食事と寝支度を済ませた。昨日寝不足したので、今日は多めに眠りたかった。さっき、ナイキのショップで友達にばったり会った。彼女は背の高いミュージシャンを連れていて、顔を見て驚いた。二年ほど前、私はその人のアルバムが好きで随分聴き込んでいた。彼女に紹介してもらって、彼と少し話した。気さくでスッキリとしているのにオーラがとてつもなく大きい人だった。そしてまた、スター性のことを考えた。昨日のイベントでたまたまそういう話になった。自分は今までスター性についてまるで関心がなく、キラキラした何かは判断を迷わせるから邪魔だとすら思っていた。でもやっぱりそれは強い魅力だ。好きなDJは誰?と質問を受けた時に、しばらく考えてから特別な存在感がある人を一人だけ挙げた。それで納得したのかもしれない。気づいていないことに気付けるのはいいと思った。ぼんやり考え事をしていたら十時を回っていて、ドラマ、獣になれない私たちが始まってしまった。まあいいか、録画をしているし今度観よう。音楽を聴きながら少し本を読んだ。水曜は無理をしない一日にしている。

20181128

昨日の夜、イベントへ行った。友達が音楽をかけていたので挨拶をして、ビールで乾杯した。店の中は現代アート風にデコレーションされていた。白い布が天井からたゆたうように吊るされ、ブルーのミラーボールの光が幾多にも重なって壁に写っていた。水槽の中みたい。オーナーがアート担当の男性を紹介してくれた。イベントでたまに見かける人だった。その人はどうも、とニッコリした。挨拶をしながら、優しい目をするんだな、と思った。彼は音楽を聴きながら長い布を張ったり廃材を飾ったりしていった。完成はないんだ、ライブアート。彼はそういった。私は小さく体を揺らしながらディスプレイが変化していくのを見ていた。面白かった。近くに寄って仔細に見たり、引いて全体を眺めたりした。音楽が闇に似たテクノに変わり、頭の中が濃い紫色に侵食されていった。遠く向こうで彼が白い布を広げ、オブジェを眺めながら考える様子が見えた。その白い布を私の胴体に巻きつけてくれないか、と思った。もちろん彼にはいわなかった。フロアはすいていて知り合いもいなかったから、猫みたいに気ままに適当にしていられた。本来イベント遊びってこういうものじゃないかと思った。今夜はオーナーに会うためにここに来たのもあった。最近、先のことを考えていると彼の顔が頭に浮かんだ。なぜかはわからない。でも特に何もなかった。じゃれるような会話を少ししたくらいだった。いつものように。

20181127

昨日の夜、寝不足につきヨガをやめて真っ直ぐ家に帰った。食事とシャワーを済ませると九時半。そこからMacgaragebandを触り始めた。寝ればいいのに。勝手がわからないのでネットで調べながらあれこれ。鍵盤をキーを打って弾けるのはiPhoneよりやり易かった。指で打つ感触があるのがいい。最近、弦楽器の音楽を聴くことが多いので、チェロやバイオリンでメロディーラインを作ろうとするのだけど、叙情的に弾くのは難しかった。ビートだけは気に入ったものができたので保存。二時間経過。楽曲制作をしていると脳からどっとアドレナリンが出て覚醒する。そしてこんなに耳を集中して使うんだなと思う。漫然と音を聞いている時とは全然違う。友達からメッセージが届き、師走の約束をする。実は会いたいと思ってたの!というのを相手から感じると嬉しい。今度約束しましょうか、とか。ふと、自分は間遠なだけなのかもしれないと思った。約束が苦手なことと愛情の量はリンクしていない。十二時前に電気毛布を持ち込んでベッドに入り、目を閉じた。

20181126

昨日の夜、イベントに行った。様々な音楽が流れる中で、店主やお客さん達と賑やかな時間を過ごした。入れ替わり立ち替わり知り合いに会い、パルスのような社交をした。社交をしながら音楽を聴くというのはほぼ不可能で、結局お喋りに興じて終わってしまう。でも気になっていた女の子と打ち解けて話せたのでよかった。聞いてみると彼女も同じ思いだったらしい。ささやかな相思相愛。帰りがけ、レコードが入った袋を抱えて、カウンターでお酒を飲んでいたDJに声をかけた。ありがとう、とニッコリすると、彼もニッコリして礼儀正しく頭を下げた。またね。店を出ると、ヒュウと冷たい風が吹いた。帽子をかぶり、マフラーをギュッと巻き直して歩き出した。まだ店に誰もいない時間帯、レコードプレーヤーのそばでこの曲いいね、とDJと話していた。よかったらレコード差し上げましょうか、と彼がいった。これは自分で買ったものなんですけど、ちょうど友達が同じものを僕に贈ってくれて。だからこれはあなたに。私は驚いて二つ返事した。レコードももちろん嬉しかったけれど、感激するくらい素敵なエピソードだったから。こういうことを優しい気持ちだけでサラッと出来る人なのだ。あの男の子は。はー本当に好き。