沢渡日記

日々徒然

20190218

昨日の午後、ぼんやりした頭の体のままヨガへ行った。レッスンの後、お風呂に浸かりながら週末の夜のことを思い出していた。音楽のイベントで、入れ替わり立ち替わり知り合いが来るような場だった。夜が更けた頃、店主に隣にいた男性を紹介されて、三人でお喋りしていた。女の人ってスマホの画面をスクロールするとき、中指を使うよね。隣の男性が言った。そういえばそうかも…と呟いて、逆に男の人は?と尋ねた。片手でスマホを持って親指でスクロールするよ。彼はそう言って私に仕草を見せた。アンニュイな雰囲気のある美しい人で、私は吸い込まれるように見とれた。それから美味しいカレーのお店を教えてもらったり、好きな音楽の話をして過ごした。それほど酔ってはいないはずだった。ただ、身体中の細胞が一気に彼の方に流れていくような感覚に戸惑っていた。彼氏いるの?ふと彼に聞かれて、私は少し黙ってから答えた。そうなんだ…と彼は呟いて、私に名刺を差し出した。連絡して。私は受け取って、曖昧に返事をした。お風呂から上がって更衣室でドライヤーをかけた。あの夜はどうしても帰れなくて、朝の四時まで二人で飲んでいた。あんな風に誰かに惹かれるのは久しぶりだった。ドライヤーを温風と冷風に切り替えながら、どうしたらいいのか本当にわからないと思った。私はついこの間、お付き合いをしましょうと別の人と決めたばかりなのだ。

20180217

昨日の午後、友達とお茶を飲んだ。ゆったりとしたソファーに並んで座って、いろんな話をした。私はカヌレを初めて食べた。気になるお菓子だったけれど、なんとなく今まで機会がなかった。小粒だけれどぎゅっと濃い味がした。前勤めていた事務所のそばに小さいカヌレ屋さんがあったのよ。彼女はいった。懐かしそうに。髪が長くて、ひんやりと孤独を見つめる目をして、でも話しぶりはどこか甘ったるい。妹みたいだなと思った。私は多分一生姉サイドだ。姉ってつまんないなと思うのは、甘える時は常に自覚的だから。どんなに自然に振舞っていても相手のことをよく見ているし、匙加減を常に意識している。これはすでに甘えではない別の何かだ。店を出て、大通りをぶらぶらと歩きながら夜空を見上げた。お酒を飲むかお茶を飲むか、どうしようかと二人で話した。まだもう少し遊んでいたいような気持ち。お腹空いちゃった、と私はいって東の方にある喫茶店を提案した。

20190216

昨日の夜、カレー屋へ行った。ゆったりしたテーブル席に着き、念願のバターチキンカレーを頼んだ。セットのドリンクメニューを眺めていると電話が鳴った。応答すると元気な声が聴こえてきた。今接待が終わったところ、何かあった?とその人は聞いた。夕方、ふと思いついてメッセージを入れておいたのだった。私が今の職場を辞めることを話すと、ものすごく驚いて残念がってくれた。彼は数年前まで仕事仲間で、職場の中で唯一尊敬している人だ。優秀な人で、瞬く間に偉くなって今では雲の上の存在になってしまった。新しく会社を立ち上げることがあったら引っ張ってくださいね。ちゃっかり転職活動もした。どこかで時間作るから飲みに行こうね。私はお礼を言って電話を切った。今の職場で働いてよかったことの一つは彼に会えたことだな…としみじみ思った。カレーが出てきて、ゆっくり味わって食べた。バターチキンカレーはいつだってご馳走だ。食後に熱いチャイを飲んだ。店を出て歩き出しながら、飲みに行こうかなぁと迷ったけれど、そのまま駅に向かった。最寄駅を出て、ローソンのマチカフェでコーヒーを買った。

20190215

昨日の夜、ヨガへ行った。今日は半月だ。ヨガをするようになってから月の満ち欠けを意識するようになった。家に帰って部屋を片付け、キッチンで解凍したお肉を炒めて温野菜を添え、簡単な夕食とした。食事の後、彼に電話をした。…ちゃん。彼の柔らかい声を聴いたらいっぺんに心が凪いでしまった。バレンタインだったので、チョコレートもらった?と聞いてみた。もらわなかったよ、と彼は答えた。それから、今何してるのとか、明日のこととか、他愛のない話を少しした。おやすみ。電話を切ってからシンクで洗い物をした。水音を聞いていると次第に静かな気持ちになった。私は相手との関係性にこだわりすぎていて、本来の自分の気持ちをよく見ていない。恋の始まりは情緒が不安定になるからつい焦ってしまう。型を安定させたくなる。相手の温度がよくわからないし、自分の温度をどこに設定したらいいかわからない。鷹揚に。何度も口に出して唱える。そもそもまだ相手のことをよく知らないのだ。一緒にいる時間やいない時間を重ねて、気持ちはゆっくり育っていく。相手も自分も。

20190211

昨日、深く深く眠ってお昼過ぎに起きた。予定が何もない日曜日。ウトウトしたりぼんやりしながら家で過ごした。読みさしの本を読んでは伏せ、お茶を淹れて飲んだり軽く食事をした。夕方にドラマ、はじこいの三話を観た。梓弓引けど引かねど昔より心は君によりにしものを。深夜、伊勢志摩まで向かう車の中で、ユリくんが正確に現代語訳した。その目の色がよかった。順子ちゃんに想いを伝えているようだった。あなたが私の心を引こうが引くまいが昔から私の心はあなたのものでしたのに。最近、一度に色んなことがありすぎて脳が処理しきれていない。私に何が起こっているのか。氷の龍を見つめた夜のことを思い出した。漆黒の夜空に天高く登っていく荘厳な姿。ひどく冷え込んだ夜で、組んだ腕だけが暖かった。実は胸の奥に白い龍を飼っているんです。歩き始めてから私がいうと、面白いね、と彼はいった。

20190210

昨日の夜、地の神様に会った。私は水や風の神様に仕える者で、その成り立ちの違いに驚いた。まるで別の生き物だった。その在り方の力強さと、あまりに真摯な姿勢に感動すら覚えた。風も水も流れる。誰と過ごしていても、どこに在ってもそれは通過点で、今の自分に縁があるんだなという感想しかない。都度出会う人に対して自分なりに誠意を尽くし、時期が来たら別れる。それを繰り返してきた私をこの人は見つけた。彼と一緒の時間を過ごす経験が、今の私に与えられた機会なのかもしれない。二人が物理的に知り合ってから随分時間が経つ。でもバージョンが上がるまで本当の意味では出会えなかった…。居酒屋の隅の席で、熱燗をお猪口で飲み、〆鯖のお刺身を口に運んだ。二人で長い時間をかけて色々な話をした。酔った私は仕事の話をして少し泣いた。揚げ出し豆腐を食べなよと彼は静かに笑った。

20180209

昨日の夜、待ち合わせの前に本屋へ寄った。入り口付近に平積みにされていた樹木希林のエッセイを手に取った。何気なく開いた頁にグッと胸を掴まれる言葉があった。頁をめくると止まらなくなった。この人は鮮やかで、生々しくて、女で、人で、神のようだ。時間が経つのを忘れそうになり、本を戻して足早に本屋を出た。道の途中、唇に乗せた赤のリップグロスがマスクにつくのが気になって外した。何を着ようか色々考えて、色味もデザインもサラッとした服を選んだ。その方が自然でいいような気がした。駅の階段を登って外に出ると、凍てついた風が頰を刺した。ひどく冷え込んでいる。ダウンのポケットからiPhoneを出してメッセージを確かめた。信号待ちで手早く返信をする。立ち止まるとガタガタ震えそうに寒い。はい、今向かってます。