沢渡日記

日々徒然

20200106

朝起きると、綺麗な朝焼けが始まっていた。ふと、今日退職することを伝えようと決めた。夕方、上司と話した。二人とも涙目になってしまった。この仕事は苦しいんです、と私は言った。あなたは完璧にやりたい人だから辛いんだと思う。この仕事は誰も完璧にはできないんだけどね…上司は静かに答えた。私は曖昧に頷いた。同じやりとりが前にもあったことを思い出した。でも、適当にってどうやるのだろう。私にはわからないし、できなかった。日々、がりがりと身が削れていくようだった。仕事明け、同期の女子とカフェに行った。穴蔵のような素敵な店だ。私はチーズケーキ、彼女はアップルパイを頼んだ。アールグレイティーを飲みながら小声で話した。ストーブがパチパチと音を立てて暖かかった。彼女は私を引き留めなかった。でも、寂しい気持ちがひたひたと伝わってきて、胸が苦しいほどだった。

20210103

麒麟がくるをまとめて一気見。信長が帝に拝謁し、公方様はこまさんを寵愛する。帝の優美な身のこなし、公方様が蚊帳の中で蛍を放すシーンが美しかった。夜、一ヶ月ぶりの家計簿をつける。仕事が多忙になると途端にサボり出してしまう。お正月休みを帰省なしで過ごしたが、特に支障はなかった。

20210102

お昼に友達が遊びに来る。チョコレートの詰め合わせと立派な函館産たらこ、手作りの黒豆をいただく、ツナとトマトの炊き込みご飯をメインにランチプレートを振る舞った。その後、のんびりお茶をする。夜は赤ワインを飲んで、たらこバタースパゲティを作って食べた。友達が帰ってから映画を観た。スパニッシュ・アパートメント。七カ国の男女がガチャガチャやってて良かった。ドイツの男の子が好みだった。スッキリと清潔で、気難しそう。混沌からの脱却。そして成長。主人公に自分を重ね合わせて見ていた。

20210101

謹賀新年。今年は帰省をしなかった。朝焼けを見ようと思ったけれど、厚い雲で空は真っ白だった。午前中、お節を適当に作って食事にした。午後からは映画を観た。ベルナルド・ベルトリッチ、シャンドライの恋。よかった。無償の愛。泣きすぎて目が腫れてしまった。シャンドライが掃除するのを見て、Mr.キンスキーがピアノを弾くシーンを何度も観た。愛の曲が出来上がっていく。

20201231

年越しの晩なので、柏そばを作った。おつゆをしみこませた揚げを乗せて、たっぷり七味を振って食べた。紅白ではPerfumeのメドレーが始まっていた。ちらりと横目で見て、録画のドラマに切り替えた。どこまでも続く浅瀬の海、与論ブルー。木村佳乃はボブがよく似合う。2020年、今年は良い年だった。決して楽だったわけではない。むしろこれまで生きてきた中で一番苦しかったかもしれない。難しい仕事を諦めずに取り組み続けた。好きだった人と心を通じ合せた。私は正直だったし、自分と向き合ったと思う。ただ、今年は次の扉を開けるための真っ暗なトンネルで、重要な通過点だという認識はあった。いつからだろう?わからない。これまで私は自分の幸福を手の届かない先に置いて、遠い星を追うようなことばかりしてきた気がする。星はもちろんいつまで走っても近づかない。なぜなら私が届かないことを望んでいたから。でも、薄々それは違うなとわかってきた。だから好きだった人と離れた。今の仕事からも離れるだろう。私はそろそろ自分の幸福から逃げることをやめなくてはならない。そのリミットがすぐそこまで来ている。

20201229

深夜、銀河の目の人を見かけた。彼の姿を遠くに認めていたけれど、特に話しかけずにいた。ビールのグラスを片手にストーブに当たっていると、彼の方から声をかけられた。名前は確認していたので、さらっと呼ぶことができた。久しぶり浮き足立つような気持ちでお喋りをした。今は仕事のことをどうにかするのが命題では、と自分を戒めたけれど、まあいいじゃない、と思った。久しぶりに男の人をいいなと思ったことだし。生物としての原始の欲求。彼はシルエットが可愛いと私に言った。シルエット。

20201225

昨日の夜、カフェに行った。待ち合わせしたのは、可愛らしい女の子友達だ。私の顔を見ると、彼女は本当に嬉しそうな顔をしてくれた。会うのは夏以来だった。お茶を飲みながら、色んな話をした。渦中だというのにカフェは賑わっていた。金曜日だからかもしれない。会話の流れから、誰かに自分の空洞を埋めて欲しいか、と聞かれた。私はどちらかというと相手にあげたいほうで、貰いたいってほとんど思わないな…と答えた。彼女はニコニコと聞いていた。この人は私から何かを受け取れるようで、それがとても好きみたいだ。私は特に何をしているわけでよなく、なんとなくそばにいて思うことを話しているだけだけれど。そういえば、私の空洞が求める温度で、適量をさりげなく注いでくれるのはあの人だけだったなと思う。彼に会わなくなってから、特に空洞が乾いているわけではなかった。誰を失ってもそれなりにやっていくしかない。ただ、もう受け取れないんだな、と思うだけだ。ショコラを口に運ぶ彼女の横顔を眺めた。繊細な何かを注意深く拾うように、日々を大切に過ごす彼女は素敵だ。自分の傷さえも丁寧に扱う。…さんは潤ってる、と彼女は言った。どういう意味かと笑って聞き返すと、心がパサパサしてる人っているじゃないですか。その逆で、ちゃんと保湿されている、と彼女は答えた。面白い表現だなと思った。