沢渡日記

日々徒然

20180920

昨日の夜、仕事の後でスタバへ寄った。睡眠のことを考えて、デカフェのドリップコーヒーを初めて頼んだ。普段の味とそう変わらなかった。ソファーに座って友達に連絡したり書き物をしていると、向かいのカウンターに知った人がいた。坊主頭にシャープな顔立ち、引き締まった細い体、白いシャツ。熱心にハードカバーを読む姿を眺めていたら、夏の初めに同じ角度でその人を見ていたことを思い出した。不思議と目を引く人だ。いつか知り合うのかもしれない。久しぶりにマッスル系のヨガでウエストをぎゅうぎゅうと引き絞り、沢山汗をかいた。お風呂でゆっくりお湯に浸かって筋肉をほぐした。通常運行。帰り道、夜風に誘われてぶらぶらと大通りを歩いた。遠くからaikoのカブトムシを歌う声が聴こえてきた。琥珀の弓張月、息切れするほどの鼓動…。恋人だった人のことを思い出した。夕暮れが終わる頃、二人で低い空に浮かんだ月を見上げた。きれいな朧月だ、と彼はいった。同じものを見て同じことを感じる人だった。まるで片割れみたいに。家に着き、チョコレートを食べようか迷ってやめて、豆乳を飲んだ。最近、気分転換に甘いものを食べる癖が戻っている。さっき測ったら体重にも響いていたし気をつけなくては。部屋の灯りを消して、久しぶりにカブトムシを聴いた。スピード落としたメリーゴーランド。

20180919

昨日の夜、少し残業をしてからヨガへ行った。汗はいつも通り出るようになってきた。ようやく眠れるようになったのも関係しているかもしれない。レッスン終わりに先生から、無理に戻さなくても、体はだんだん戻って行きますから、と手を握られた。帰宅して、豚肉やソーセージを焼いて、温野菜と一緒に食べた。お蕎麦を半分だけ茹でてざる蕎麦にした。食事の後、少し横になったらそのまま眠ってしまった。起きると午前二時を過ぎていた。桃のゼリーを食べて洗い物をした。蛍光灯の下で食器をゆすぎながら、露悪的ともいえる告白のことを思い出していた。相手は私に甘えていたのかもしれない。私を遠ざけるようなことをいいながら、本当は苦しい、ここから出してと聞こえた気がした。静かなピアノ曲を聴きながら、グラスの水をゆっくり飲んだ。深夜の考え事には夜気が混じる。深く眠ろうと思った。

20180918

昨日の午後、久しぶりに食欲が出たので食事へ行った。丁寧に作られたあんかけ焼きそばを食べて、食後にわらび餅みつ豆と緑茶で和んだ。ゆったりしたサロンのような店内は年配客が多く、静かなざわめきの中、私は影絵のようにひっそりと時間を過ごした。店を出て、川を渡って喫茶店に行った。コーヒーを飲みながら、雑誌penの宿特集をめくった。都内のスタイリッシュなカプセルホテルが紹介された頁があり、ひとつひとつをじっくり眺めた。夜遊びの折りに一度泊まってみたい。カウンターの通路で、店員の女の子が後ろ出に髪を結い直していた。隣の席では大学生のカップルがお祭りの話をしていた。昨日の夕方、以前の恋人にばったり会った。もう二度と会うことのないはずの人だった。少しだけ言葉を交わして別れた。背の高い彼を見上げる角度を懐かしく思った。店を出て電車に乗り、公園に行った。桂の樹の下のベンチに座ってぼんやりと考え事をした。木陰の隙間からさわさわと柔らかい風が吹き、永遠に留まっていたいような気持ちになった。例えば白骨になるまで。そして土に埋もれた私の骨の隙間から、新芽が出るといい。早く樹になりたいと思った。そうすればもう、恋人と泣きながら別れたりしなくていい。

20180917

昨日の夕方、お祭りへ行った。会場は大盛況だった。混雑した通路をかき分けるように一周してから、バーカウンターでアサヒドライブラックを頼んだ。立ち飲みスペースで中ジョッキを傾けながら、おつまみを買えばよかったかなと思った。食欲はまるでなかった。周りを眺めるとカップルばかりで、皆くつろいだ顔でお酒や料理を楽しんでいた。ビールを半分まで飲んで、ふいに涙が出た。悲しくないのかと尋ねた時、恋人は仕方ないと思う、と答えた。感情を聞いているのよ、私が静かにいうと、彼は黙った。理性で統制しすぎて、感情がうまく作動しないのだろうと思った。向かいのカップルが入れ替わり、ツブ焼きをつまみにビールを飲み始めた。隣の女性は人待ち顔で白ワインを飲んでいた。昨日の夜、彼とサンドウィッチを食べた。噴水の階段に座ると夜空が広く見えた。場は賑やかなざわめきに満ちていて、私たちのしている話が嘘のように思えた。ビールを飲み終えて会場を出た。ひと気のない道を選んで、昨日の公園までゆっくり歩いた。涙はまだ止まらなかった。悲しいときは悲しめばいいのだと思った。いつかまた心が健やかに芽吹くために。彼もそうであるといい。園内に入るとすっかり日は暮れていた。低い生垣に咲く白い薔薇がきれいで、ぼんやりと見つめた。

20180916

昨日の夜、薔薇を見に行った。横断歩道を渡りながら、今夜は楽しい?と私は恋人に尋ねた。話の内容がね…彼はぼそりと呟いた。夜の公園は閑散としていた。薔薇は闇に沈み、白い花だけがぽつんぽつんと浮き上がって見えた。薔薇はね、一年に何度も咲くんですって。へえ、繁殖力が強いのかな。冬に咲く薔薇もあるみたいよ。話しながら公園の真ん中あたりまで歩いて、ベンチに座った。夜空を見上げると、グレーの雲に覆われて星は見えなかった。それから二人で、さっきまでの話の続きをした。私は時々、ぬるくなったペットボトルの炭酸水を飲んだ。私たちの組み合わせは難しいかもしれない、そう二人で確認し合うのはさみしいことだった。二人は同じ色をしているけれど形が全然違っていた。それぞれの欲しいものと欲しくないものが違いすぎて、別の星の人みたいに思えた。夜風が微かに髪を揺らした。こういう話は天井のない場所でするのがいい。どんな感情も風に淡く包まれて、夜空へと高く消えていく。これが最後のデートだよ、私はニッコリした。彼はずっと暗い目をしていて、少しでも笑ってほしかった。でもこんな時に笑う私の方が変なのかもしれなかった。静かな道を歩こうか。彼がそういって、二人で手を繋いで駐車場まで歩いた。誰もいない信号待ちで、名残惜しくなっちゃうよ、と彼は呟いた。そうだね、私は彼の肩にそっと頭を乗せた。

20180915

昨日のお昼、お参りに行った。神社は空いていて、私の前に女性が一人いるだけだった。拝殿に立ち、静かに手を合わせてお祈りした。天変地異を無事に過ごせたことと、恋人に出会えたことのお礼を伝えた。参道の緑を見上げながら歩いていると、同じ魂の色を持つ者を見つけ合った、という言葉が頭に浮かんだ。きっとそういうことなのだろう。私は納得して、鳥居の前で深く頭を下げた。帰り道、公園に寄ってベンチに座った。樹々の緑と秋空をぼんやりと眺めた。空は青く、平和な形の雲が浮かんでいた。当たり前のような景色の一部でいられることに、しみじみとありがたさを感じた。

20180914

昨日の夜、デートはできなかった。恋人から仕事が終わるのが十時を過ぎると連絡があった。帰り道にコンビニへ寄ると、惣菜コーナーに真空パックのおでんが売っていた。久しぶりに見た気がして、思わず買ってしまった。家に着き、おでんを鍋で温めて食べた。美味しかった。あったかい食べ物はありがたい…と思った。洗い物を済ませてぼんやり音楽を聴いていると、仕事が終わったよ、と彼から連絡があった。遅くに家に来た彼は、疲れ切った顔をしていた。炭酸水を飲みながら、小さく音楽を流して話をした。彼が私の膝で眠りそうになって、ちゃんと寝なよ、と私はベッドへ促した。暗闇の中、横になって彼は電子煙草を吸った。シューッと吸いこむ音がする度に、先がほんのり紫色に光った。私も少しだけ吸わせてもらった。意外に煙草の味をしっかりと感じた。まだ寝ないよといっていた彼は、そのうち私に抱きついて眠りに落ちた。背中に腕を回すと彼の深い呼吸を感じた。永遠かと思うほど長い時間、私は彼の髪を撫でた。愛おしさで胸がつぶれそうになった。私は百年分の幸福を前借りしているのかもしれない。瞼を閉じながらそう思った。