沢渡日記

日々徒然

20180927

昨日の夜、残業。最終のクラスのヨガに滑り込み、ウエストをぎゅうぎゅう引き絞った。備えあれば憂いなし。幸か不幸か。終わりのいいところはひとつだけで、新しく始められるところだ。さて質問です。また始めて、私はいつ上がれるのでしょう。最寄駅を降りて夜空を見上げると、欠け始めた朧月がしんと浮かんでいた。満ちては欠け、また満ちる。夜気に手を伸ばしたけれど、風がくぐりぬけていくだけだ。家に着いたら窓を開けて、ちょうどよく熟れたプルーンを食べよう。

20180926

昨日の夜、仕事帰りにヨガへ行った。今夜が満月ですよと先生が言った。昨日ではなかったのか。月の礼拝をしながら、関節がいつもより開かないと思った。自分のコンディションもあるのだろう。レッスン明け、休憩スペースで職場でもらったお菓子を食べた。次のレッスンまであと一時間あった。LINEにメッセージが届いて開けてみると、高僧のような人からだった。この前あなたと話したいと思った日に行った場所です。写真を開くと、厳かな雰囲気の古い教会だった。天井近くまではめ込まれたステンドグラスにはキリストが描かれていた。たまたま通りかかったからお祈りして…それであなたのこと。ふいに胸がつまって言葉が出なくなり、素敵ですね、と一言だけ返した。やりとりを終えてから少し泣いた。この人に会ったら私はまた涙が止まらなくなるのだろうなと思った。二本目のヨガではたっぷりと関節や筋を伸ばして全身の経絡を流した。尋常じゃないほどの汗が出て皮膚の輪郭が曖昧になっていく気がした。湿度に身を預けてくたりと力を抜くと、時折浅い眠りに落ちた。

20180925

昨日の午後、買い物へ行った。フリーマーケットでワイングラスとライターを買い、アクセサリーショップでネックレスを修理に出し、無印良品で電気毛布と電気ラグを買った。帰り道に寄ったデパ地下で、洋菓子屋が並ぶエリアを流した。今夜は中秋の名月です。あちこちの店でポップが貼られていた。お月見団子を横目で見つつ、ショートケーキを買って家に帰った。キッチンでアッサムティーを淹れた。窓を開けると満月は明るく、輪郭がぼんやりと滲んでいた。部屋の電気を落としてケーキを食べた。生地はフワフワとやわらかく、フォークを入れるとあっけなく崩れた。生クリームとスポンジを掬い取って口に運んだ。窓の下を見おろすと、月を見上げている少年がいた。突っ立ったまま身じろぎひとつせず。紅茶を飲んで、最後に残った大粒の苺を食べた。夢のように美味しかった。iPhoneを手に取って、メッセージを打った。二人のやりとりは、何号室だったかな?という彼の発信で止まっていた。吹き出しの中に表示された七文字を見つめた。彼がどこかで同じ月を見上げているといいと思った。ワイングラスを洗って丁寧に拭き、冷たい水で満たした。紫色のお香にライターで火をつけた。甘ったるい夜の香りが立ち込めてきた。水を少し飲んで、ぼんやりとお香の先が灰になっていくのを見ていた。月が綺麗ですね。送信ボタンは押さなかった。

20180924

昨日の夜、お祭りへ行った。会場は人が溢れ返っており、あちこちの屋台で長い行列ができていた。通路を行き交うのも苦労するほどだった。牛すじ焼きそばと甘いそば粉のクレープを食べた。今日一度目の食事だったけれど、十分満腹になった。昼間、神社へお参りに行った。お彼岸の中日だったので、朝から水だけ飲んで体を清めた。参道に入ると骨董市が立っていた。お祈りを済ませて拝殿を降り、背の高いご神木を見上げた。さわさわと柔らかい風が吹いた。帰り道、深い緑の中を散歩しながら祖父母のことを想った。秋分の日は彼岸と此岸が最も通じやすい日と考えられているそうだ。自分もいつか彼岸へ行く。今はまだ此岸にいる。ふたつに大差はない。そんな気がした。お祭り会場を抜け出して、セブンカフェでコーヒーを買った。芝生が見渡せる銀色の柵にもたれて飲んだ。夜空は紫色だった。私は大抵の時間、ひとりでいると思った。そろそろ諦めた方がいいのかもしれない。いつも一緒にいられる誰かに憧れて、でも実際そうなると距離の近さに混乱する。多分向いていないのだ。夜道を少し散歩して、バーへ寄った。店主は常連客にかかりきりで、私はビールを飲みながら静かに本をめくって過ごした。特に話をする気もなく、よく知った低い声を聴いているだけで十分だった。二杯目は温かい烏龍茶を頼んだ。誰かに全く期待がないのは心地いいと思った。

20180923

昨日のお昼、秋刀魚を塩焼きにした。青紫蘇を添えて、頭から尻尾まで丸ごと食べた。一物全体。少し物足りなくて、もやしの塩炒めを作り、木綿豆腐をカットして黒豆を乗せた。体がタンパク質を欲している気がした。食後、部屋の掃除をした。隅々まで拭き掃除していたら、クイックルワイパーの在庫がなくなった。ひと段落着くと、iPhoneのケースを外して洗い、Macのキーボードの埃汚れを拭いた。透明なものは透明に、白いものは白く。合間、ACIDMANの赤橙を流した。この人の声は雨降りのようだと思った。しばらく誰にも会いたくなかったけれど、一人だけ会いたい人がいた。数日前から何度も顔が思い浮かんだ。高僧のように徳の高い人。連絡をしてみると、異国にいると返事が来た。旅の途中、あなたと話したいと思っていた。そういわれて、回路のことを思った。生プルーンを食べながら、朝ドラの録画を観た。律くんは風の谷という町に住んでいた。クラシカルで緑に囲まれた素敵な家だった。正人くんは十歳歳上の彼女に夢中だといった。ずっと彷徨っていた正人くんの心がようやく満ちたんだなと思った。よかった。皆、 満ちるタイミングは様々だ。そのために出会いを繰り返すのだろう。私は恋人だった人が満ちていく姿が見たかった。でもそれはずっと先のことなのかもしれない。五時からのヨガのレッスンに出ようと決めて、身支度を始めた。クローゼットから久しぶりにスウェットワンピースを出した。また私は誰かと引き合うのだろうかと思った。縁には順番がある。私が決めるようなことではない気がした。

20180922

昨日の夜、スタバへ行った。コーヒーが飲みたい気がしたけれど炭酸水にした。残業明けで頭が痺れるように疲れていて、ソファーに座ってぼんやりした。時計を見るとヨガのレッスンまであと一時間あった。店はすいていて静かだった。扉から異国の目をした観光客がふたり入ってきた。隣の席では大学生らしきカップルがフラペチーノを飲んでいた。長く一緒にいたかったら相手を許すことだよ。昨日、バーで友達が言った。その言葉は棘のようにチクリと胸にささった。私は昔の自分にそっくりな人と出会い、昔の自分が許せなかったことを相手から言われたんだなと思った。因果応報。ヨガのレッスンは空いていた。ゴムカアーサナで骨盤をぎゅうぎゅうと締めていたら汗がどっと出た。鼠径リンパ節を丁寧に伸ばしたり縮めたりすると、身体全体がスッキリする。全身は繋がっているのだと実感する。ヨガを長く続けていくうちに、頭で指令して体を統制する感じがなくなった。身体は全体で調和を求めていて、それに応えるのが自然な気がする。お風呂でお湯にゆっくり浸かった。ヘリに腕をかけてうつ伏せになり、人魚のようにユラユラと足首を揺らした。腰から下の重力がふわりと解放された。私もあの人を許せなかったのだろうかと思った。人を傷つけることへの自覚がないことに。さすがにそこまでは私も大きくなれないよ。

20180921

昨日の夜、久しぶりに友達に会った。しばらく一人でぼんやり考えていたくて、植物のそばにしか居られなかった。カフェでお茶を飲みながら、直近の恋の顛末を話した。色んな人がいるね…と彼女はいった。色んな人がいる。その通りだ。店を出てバーへ行った。友達は隣り合わせた常連の男性に捕まって、二人で話し込んでいた。私は特に参加する気になれず、 あまり話さなかった。スパークリングワインのグラスを覗き込むと、向こう側に置かれたキャンドルポットが映り込んでいた。ゆらゆらと揺れる色とりどりの光が綺麗でしばらく眺めた。店主がエクアドルとドミニカのチョコレートを出してくれた。ドミニカのものがフルーティーで美味しかった。コーヒーの話から、夕方を過ぎてからカフェインを摂ると眠れなくなると話した。誰かのそばで話したり話さなかったり、適当にしているのはいい。友達の耳たぶに飴色のピアスが揺れるのを見ていた。