沢渡日記

日々徒然

20190807

午後からデータの作成を始めた。説明を受けながらディスプレイを見てキーボードを打ち、マニュアルに目を落として確認する。それを繰り返していた。少し眠気を感じて、ポーチからミンティアのケースを出して一粒口の中に入れた。眠そうだった背中合わせの子にもこっそりと渡した。斜め向かいの席では打ち合わせが始まっていた。何気なく視線を送ると、その人と目が合った。不自然な瞬きをして目を逸らすのを、見なかったことにした。タブを切り替えて表示を確認していると、彼が自席の方へ戻っていくのが見えた。私は横顔をちらりと見て、ステンレスボトルのココアを一口飲んだ。青のマーカーでマニュアルにラインを引き、小さく書き込みをした。料率の二分の一を算出して入力すること。その人は同じフロアの中にいながら、ほとんど接点がなかった。数回、業務の話をしたことがあるだけだった。私は彼の目に不思議と吸い寄せられた。理由は分からなかった。どうしてだろう、と私が問うように見つめると、同じような視線が返ってきた。データが出来上がったので、印刷のチェックに入った。フォーマットをいくつか切り替えてレイアウトを確かめた。彼が水のペットボトルを片手にフロアの奥へ向かうのが見えた。気持ちが滲んでいく、と思った。不意の瞬きは偶然かもしれなかった。でもそれだけで私には十分だった。ゆっくりでいい。もし滲んだ気持ちが溢れ出てしまったら、その時にまた考えればいい。私はマニュアルのページをめくって、四角く囲まれた注意書きに目を通した。