沢渡日記

日々徒然

20190808

仕事明け、ビルを出ると雨が降っていた。折りたたみ傘を広げて図書館へ向かう途中、参考書を忘れたことに気づいた。デスクの引き出しに入れたままだ。傘とステンレスボトルを二本持って、荷物は全部という気持ちになってしまっていた。タイムロス…と思いながら引き返した。フロアにはあまり人が残っていなかった。引き出しの前に屈みこんで参考書を出し、茶色の紙袋に入れた。立ち上がってちらりとフロアの奥を見ると、あの人の姿が見えた。私は踵を返してゆっくりと歩きならフロアを出た。遠ざかる背中を彼に見ていてほしいと思った。エレベーターホールに着くと、別のセクションの女性が先に待っていた。にこやかに挨拶を交わして到着を待った。午後、休憩時間に席から立った時、遠くの席にいるあの人がすっと目を逸らすのを見た。そうか…と思った。もちろん私は何もしなかった。ただ、ひっそりと気持ちを温めた。距離のある場所から視線を感じたり、でも目が合わなかったりするのは本当に素敵だ。初めて二人で話した夕方のことを思い出した。入社してひと月が経つ頃で、どうですか?と彼は聞いた。カジュアルな雰囲気のせいか初めは気づかなかったけれど、彼はまっすぐで聡明な目をしていた。優秀な人なんだろうなと思った。図書館に着くと、館内はめずらしく空いていた。私はいつものソファーに深く座り、参考書を開いた。