沢渡日記

日々徒然

20191008

あの晩、一番好きな人の前でめちゃくちゃに泣いた。そういうことなのだろうか。ぼんやり思い出しながら考える。私がこれだけ長い間、つかず離れず側にいようとしている人は、彼だけかもしれない。電撃的な一目惚れをしてから随分時間が経つし、緩やかに関係性は変わっていった。普段の自分なら、縁遠くなる人たちに対して、まあ仕方ないよね…と次の出会いへ向かうことが多い。でも、もし彼に二度と会えなくなったら同じように思えるだろうか。わからない。

20191006

生プルーンを皮ごと齧り、紅茶を飲む。星野源のメロウな曲が流れている。この曲好きだなと思う。傘の下は川、ミスユー。今日の午後、公園で過ごした。いつもの小道をゆっくり歩いて、樹々の枝先に成る赤い実や、淡く色づいた葉を見上げた。日陰に入ると冷んやりと涼しい。少し迷って、神様のベンチと呼ぶ場所へ向かった。林の奥へ分け入り、苔生した飛び石を踏んで。ベンチに座ってクリームパンを食べて、ステンレスボトルの熱い紅茶を飲んだ。一息ついてから、紅玉りんごをかじった。湿った土の上に黄色い木の葉がはらはらと落ちて、彩りを添えた。私はいつもここにいて、誰かを想ったり、時折誰かと一緒に歩いたりしているなと思った。全然飽きないし、このままこの地で植物になってしまいたいとすら思う。立ち上がって日向のベンチへ向かった。たまにはのんびり読書をすることにする。山崎ナオコーラ人のセックスを笑うな、を読み始めた。これで何度目だろう。好きな小説だ。オレのファンタジーにぴったりな形がある訳ではない。そこにある形にオレの心が食い込む。みるめくんの心情は恋の真髄という気がする。最近の自分を思い返した。今年の登場人物は際立って美しい男ばかりだなぁと思った。これは私のファンタジーなのだろうか。

20191004

めちゃくちゃ辛い、毎日。根気よく私に手をかけてくれる人がいる。ゆっくり待ってくれる人がいる。ごめんなさい、色んなことがすぐできるようにならなくて。ごめんなさい、頭と心と言葉がバラバラで。日々努力をしても全然追いつかない。これが自分の精一杯で。歯がゆい。毎日打ちひしがれる。自分に満足できない。でも、どうかもう少しだけ待ってほしい。必ず還しますから。150%の感謝を、お客様に。そばにいてサポートしてくれる方々に。

20190929

少し外を歩きましょうか。彼が言って、私たちは店を出た。午前四時。まだ夜が続いている。彼と並んで歩くのは久しぶりだった。二人で何時間お酒を飲んでいたのだろう…。白ワインですっかり酔っていた。前を向いたまま、ぽつぽつと何気ない話をした。靴音が夜空に高く響いた。公園の樹々が少し紅葉してきたよ。さっき、バーのカウンターで彼に話した。あぁ、と彼は答えた。以前、その公園で彼と散歩をしたことがあった。夏の初めの午後、空には甘い青空が広がっていた。彼は林道に咲く紫陽花の写真を一枚撮った。見せてというと、適当に撮ったから、と彼は控えめに笑った。そっか、私は返事をして、並んでゆっくり歩き出した。風が樹々の間を抜けて、葉擦れの音がした。この時間が永遠ならいいのにと思った。大通りに出て、信号待ちで立ち止まった。私はもう、あの頃みたいに彼を好きではないんだな…と静かに思った。我々は旬をずらしてしまった。仕方のないことだ。こうして友達みたいに仲良くなったのも、彼との縁の流れかもしれない。そこの角まで送るよ、と彼が言った交差点に着いた。またね、と彼が私の手を握った。ハグだけしようか。ギュッと抱き合うと、私と同じ温度がした。彼は地続きだと思った。シンプルな事実として。手を振って明るく笑って別れた。

20190923

朝から雨が降っていた。テーブルの上でノートパソコンを広げてずっと仕事をしていた。思い出したようにグラスの水を飲み、窓の外を眺めた。昨日の深夜、大丈夫ですよ、とメッセージが届いた。一瞬ホッとして、その後、気持ちがめちゃくちゃになった。全然好きな自分じゃない。彼の前ではいつでも、涼しい顔でゆったり笑っていたかったのに。不用意に誰かに寄りかかった後は、いつもこんな風に吐きそうな気持ちになる。夕方、傘をさして外へ出た。雨はまだ降り続いていた。レインシューズを履いてくればよかった。パン屋でレーズン食パンを買って、公園の脇を抜けて神社へ向かった。空は重いグレーの雲で覆われ、濡れた樹々の葉は深緑色に沈んでいた。結局、今の私は誰のことも好きではないのだ、と思った。でも愛を余るほど持っているから、そこら中に注いでしまう。男女問わず、大量に。だから訳が分からなくなる。時には自分自身の気持ちさえも…。神社に着くと、境内には誰もいなかった。雨の音だけがしていた。長いお参りをした後で、御神木様の濡れた幹に触れた。

20190922

シャワーを浴びて、髪を乾かしながら音楽を聴いていた。ノルウェーのダウナーなエレクトロニック。ブラッシングで仕上げをした後、途中まで読んでいた本をまた開いた。エイブラハムの感情の二十二段階。自分の気分が現実になるというのは、前から知っている気がした。八番目の退屈を境に、ネガティブな感情へと移行していく。七番までにいる必要がある…。洗面台へドライヤーとヘアオイルを片付けに行き、キッチンで水を一杯飲んだ。時計を見ると深夜を少し過ぎていた。棚の上のiPhoneを開くと、メッセージが届いていた。しばらく眺めて、何を返していいかわからなくなった。さっき、私はどうして彼に連絡をしたのだろう。ふいに、涙がパタパタと流れて膝に落ちた。大丈夫だよって、言ってもらえませんか?そう打ち込んで、ぼんやりと画面を眺めた。全然大丈夫じゃないんだな私は、と思った。少し迷ってから送信ボタンを押した。自分で自分をどうしても支えられない時、頼ってもいいのだろうか。わからなかった。逆の立場なら、私の大事な誰かの元気がないなら、飛んで行って抱きしめるのに。

20190921

コーヒーを飲みましょうか。きれいに晴れた朝だった。コンビニでホットコーヒーを買って、二人で公園まで歩いた。光合成したい、と彼が青空を見上げて言った。噴水の見えるベンチに座ると、眩しいほどの日差しが降り注いできた。さっきまで、真っ暗なフロアの中で音楽を聴いていたのが嘘のようだ。お疲れさま。コーヒーで乾杯した。あの時、驚きましたよ。彼が面白そうに言った。初めて話しかけられた女の人に注意された。そうじゃないよ、と私は笑った。禁煙エリアで煙草を吸い始めた彼を、私は後ろから注意深く見ていた。一本吸い切って灰皿で消したのを見届けて、彼に声をかけた。私はコーヒーを一口飲んでベンチに置いた。多分禁煙のことを知らないんだなと思ったし、あなたがスタッフに何か言われる前に守りたかったから。そう答えながら自分でもよくわからなくなった。守りたい?ホスピタリティーにしても程がある。彼は楽しそうに笑って、あなた変な人ですね、と私に言った。それから彼と色んな話をした。不思議とすぐに打ち解けて、二人ともリラックスしていた。日差し大丈夫?と聞かれて、私は日よけにストールを被って太陽と逆向きに座り直した。さっき食べてたチュッパチャップスはソーダ味でしたよ。私が言うと、コーラ味なら最高なのにね、と彼が返した。気がつくと二時間ほど経っていて、私たち昨日から二十六時間くらい起きてるんじゃない、と話した。送りますよ、と言ってくれた彼と、駐車場までぶらぶら歩いた。車の助手席に乗り込むと、三つのドリンクホルダーには全部赤コーラの缶が収まっていた。コーラ大好きなんですね。私はニッコリして彼に言った。