沢渡日記

日々徒然

20180521

昨日の午後、バスに乗って猫に会いに行った。猫はモカとグレーの中間の色で、瞳は碧色。しなやかに動く男の子だ。こんにちは、かがみこんで挨拶をすると、猫はじっと私を見た。興味はありそうなのに間合いは詰めてこなかった。女友達がキッチンで料理を始めて、私は向かいのカウンターの椅子に座った。パスタ、どれくらい食べられる?彼女に聞かれて、どれくらいでも、私は答えた。昨日からまともに食事をしておらず、朝起きて買い出しを済ませ、そのまま家を出てきた。何でもいいから手作りのご飯が食べたい!とお願いしてあったのだ。猫が音もなくカウンターに上がり、優雅に横切った。私の方は見なかった。できましたよー。テーブルにはタラコとシメジのパスタ、トマトとベーコンのスープ、人参と大根のピクルスが並んだ。…にはおやつあげるね、カラカラとキャットフードを器に入れる音がした。猫はニャァァ、と甘えた声を出し、奥からカリカリと食べる音が聞こえて来た。何かお酒飲む?と彼女に聞かれて、私は首を振った。飲んだら間違いなく眠ってしまいそうだ。いただだきまーす!私は手を合わせた。食事をしながら彼女は、夢にまで見た猫との生活よ、といった。彼女は数年前、寡黙なパートナーを得た。そして最近、物言わぬ猫を得た。うちで喋るのは私だけ、と彼女は笑った。聞き慣れた柔らかくて甘い話し声を聞いていたら、体の奥底からリラックスするのを感じた。そういえば何があったの?と聞かれて、前の恋人のことを少し話した。今でも普通に好きだよ、と私はいった。他にいいと思う人はいないの?と聞かれて、いないと答えた。彼女はしばらく考えて、まあ急がずだね、といって、隣にうずくまっていた猫の頭を撫でた。猫は眠そうな目をしていた。眠いけれど見慣れない私が気になるから眠らない、という表情。私はふふふ、と笑った。ピクルスはクミンが効いていて美味しかった。レシピを聞くと、かなり砂糖が入っているようだ。何年か前、毎週のようにピクルスを作っていたことを思い出した。あの頃は休みの日になると七時間も八時間も料理をしていた。オレンジのジュレを作ったけど食べない?彼女に聞かれて、食べるー!と答えた。彼女がキッチンで洗い物を始め、私は猫にブラッシングをした。気持ちよさそうにゴロゴロと向きを変え、ここをやって、ここも、とねだられた。ハイハイ。噛もうとしたらもうやめたほうがいいよ、といわれて、ハーイ、と返事をした。程なくして猫は身をよじって噛む仕草をした。ハイハイ。ブラッシングをやめると猫はふうん、という目で私を見て、窓の方に歩いて行った。お茶にしましょう。コーヒーとジュレ、お土産に渡した和三盆のロールケーキが運ばれて来た。誰かに淹れてもらうコーヒーは久しぶりで、大げさに感激してしまった。至福の午後だ。