沢渡日記

日々徒然

20190811

長い沈黙の後、それで…ちゃんは、どうしたいとかあるの、と彼が聞いた。わからない、と私は呟いた。少し考えて、これ以上あなたと別れたくない、と小さく答えた。向こう側から音楽が聴こえてきていた。私はハイネケンの瓶を持ち上げて一口飲んだ。瓶の緑色が指先に映った。これ以上別れたくない、それは彼も同じだと言った。そう、私は返事をした。それから二人とも少し黙った。私たちは遠い場所から愛し合っていると思った。種類は何だろう。人間愛かもしれない。隣に座る彼の気配はあまりにも自然だった。私は安堵しそうになって、心にふっと影がさした。例えば彼と一緒にいることになったとして、上手く行く自信はなかった。感情の量が多すぎて、穏やかな日々では処理しきれなくなるような気がした。そうなったら多分、決壊する…。私はハイネケンの瓶をテーブルに置いて両腕を抱えた。汗の引いた腕はひんやりとしていた。もうここから出たい。夜が更けた頃、彼の後ろ姿を遠く眺めながら思っていた。彼に会って言葉を交わすたびに気持ちが溢れてしまう。もはやどんな風に好きなのかもわからなかった。わからないから、爽やかなふりをしていた。でも、これでは完全に袋小路だ。横顔を見つめると、彼が弱く笑った。私もニッコリと返したけれど、泣き笑いみたいになったかもしれなかった。金の細い絹糸のような鎖を想った。彼にしかそれを斬ることはできない。お願いしたいことがあるの、私は口を開いた。何、と彼がこちらを見た。