沢渡日記

日々徒然

20210822

日中、仕事はわりと暇だった。副菜を冷蔵庫にしまう前にラップする作業が苦手だ。フニャフニャの薄いサランラップがキライで、扱いたくないのもある。私には手作業は向いていない、とまた思う。秋の特別メニューは何がいいかな、とシェフから聞かれて、カボチャとかサツマイモが入っててほしいですね、と答えた。ホクホク系は苦手、ペーストしちゃえばいいけど、とシェフは言う。私は色が好きなのかもしれない。オレンジや深緑、赤紫。一時半に、風の人と同じ苗字の人から予約があって、そういえば昨日店の名前を聞かれたな…と思い出した。実際に来た人は全然違う人で笑ってしまった。賄いは濃厚な味噌ラーメンだった。三つ葉がアクセントとなって美味しかった。シェフと臨時スタッフ君が、美味しいラーメン屋の話をずっとしていた。ラーメン屋の名前を二つ記憶した。料理界の人たちの情報だから、きっと美味しいのだろう。そういえばこの職場でも、私はあまり喋らない。話を聞いているだけで満足してしまうのだ。仕事終わり、アイスコーヒーを飲みながらボーっとした。この時間が好きなのだった。シェフは向こうで寝転んで休息している。彼はどんなにそばにいても、重力を全く感じない不思議な人だ。私も好きなだけ一人で浮遊していられる。ふと、昨日の夕方のことを思い出した。二人でカフェを出てから八百屋に寄った。私は新鮮そうな長ネギの束と、大ぶりなトマトを選んだ。よかったらうちでご飯食べていきません?と風の人に声をかけると、彼は黙ったまま不思議な表情をした。感情と言葉がうまく直結しないようだった。後で嬉しいのだとわかった。そういうところにも慣れていきたかったな、と思う。誰かと一時でも側にいるのは、いびつな魂と魂が触れ合うことだ。そこでしか起こり得ないことがある。店を出て、駅までの道のりを歩き始める。キャップを忘れたことを思い出して店に戻ると、ついでにクーラー消してもらえる?とシェフが遠くから言った。はーい。キッチン横にある冷房パネルの、緑に光ったボタンを人差し指で押した。